バイキン部屋から届け!インフルエンザ3つの誤解

息子からインフルエンザをもらった父(職業:総合診療医)です。妻が(バイキンじゃなくてウイルスなのに)「バイキン部屋」と名付けた客間に丁重に隔離され、手持ち無沙汰なのでインフルエンザに関するよくある誤解をまとめます。インフルエンザ流行期に熱が出たら、医療機関をすぐに受診してタミフルやイナビルや風邪薬を貰わなきゃ!と思っている方に、ちょっと立ち止まってご一読いただければと思います。

ただし、これは私個人の意見ですので、所属施設の見解とは関係ありませんし、この記載であなたが不利益を被ったとしても責任をとることはできませんのでご容赦ください。

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どひゃー、ごめんなさい! やむをえず今日は臨時休診です。

結論

はじめにせっかちな方のために私の考えは次の通りです。

誤解1 タミフルが効く!
もともと元気な6〜65歳には抗ウイルス薬は不要
誤解2 熱が出たら必ず病院へ!
⇒⭕元気であなたが心配していないなら、受診は必須ではありません。

❌誤解3 病院の薬が効く!
市販薬も処方薬も風邪薬は症状を和らげるだけ

順に紐解いていきます。

誤解1 タミフルが効く!

私は(今回は)抗ウイルス薬(タミフル、イナビル、リレンザなど)を使いません。

2014年のコクランライブラリーのまとめ(*1)によれば、タミフルの効果は有症状期間を7日から6.3日に短縮することです。入院や重大な合併症を減らす効果はありません。自己申告の肺炎のリスクは1%減ったとされています(つまり、100人に処方すると一人の「自称」肺炎を防げる)が、胸部X線で診断された肺炎は減りませんでした。

要は、もともと持病の無い方にとっては、風邪症状を半日短くするために、1万円前後の医療費をかけて(初診料2820円とインフルエンザ検査料2910円と先発品2830円の薬剤費と薬局の調剤料1000円前後も)様々な副作用の危険(下痢は4%くらいにありますし、稀ながら劇症肝炎、急性腎障害、スティーブンス・ジョンソン症候群の報告もあります)を冒してまで「飲まなくてもいいんじゃない?」というのが個人的な考えです。

もちろん、重症化リスクの高い方は、医師の診察を受けて抗ウイルス薬を含む適切な治療を受ける必要があります。ちなみに、アメリカのCDCが重症化リスクが高いとするのは、次のような方たち(一部抜粋)です。あなたやあなたのご家族は当てはまりますか?

  • 入院が必要な重症例
  • 65歳以上、5歳未満(特に2歳未満)
  • もともと呼吸器疾患や心疾患、免疫不全などの持病がある方
  • 妊婦さんなど

ちなみに新しい吸入薬のイナビルに至っては、海外の第二相試験で偽薬(プラセボ)と比べて有症状期間の短縮を示せなかったため、日本国内でしか販売されていないクールジャパンレアな一品です。良い結果が出なかったので論文化されていないようですが(これが出版バイアスってやつかしらんもし論文を見つけたら教えてください)、アメリカの臨床試験データベースにはイナビルを2個(40mg、日本の使用量)吸っても、倍の4個(80mg)吸っても、一つも吸わなかったときと症状のある期間は同じ4日間でしたと赤裸々に登録されています。それ、聞き捨てならない!ですよ。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/results/NCT01793883?sect=X70156#outcome1

イナビルとタミフルと比べた試験で効果が劣っていない(非劣性試験)ことで日本では認可されましたが、釈然としないものが残ります。だって偽薬と同じだったイナビルが、タミフルに劣らないって・・・、じゃぁタミフルってなんだよ!と。薬のお値段もさらに上がって4280円。このあたりのもう少し突っ込んだ話は次の名古屋掖済会病院のまとめが秀逸ですので、医療関係者の方はぜひご一読ください。

ディープ・インフルエンザとER診療(名古屋掖済会病院)
http://www.nagoya-ekisaikaihosp.jp/?p=5781 (Web版、下のFacebook版の方が新しそうです)

効果と副作用と費用とを総合すると、抗インフルエンザウイルス薬はすべての人に必要な薬とはいい難いと思います。さらに、2018年5月には塩野義製薬から1回の内服で効果があるゾフルーザが発売になることが2月9日に報じられました。名前はフリーザみたいでかなり効きそうです。詳細はわかりませんが、これもやはり発売時点では日本でだけ承認されているクールな一品になる見込みですので、費用対効果についてちゃんと眉につばして向き合う必要があります。

タミフルが効く! ⇒もともと元気な6〜65歳には抗ウイルス薬は不要

誤解2 熱が出たら必ず病院へ!

ぐったりして心配な時、食事も取れない時、呼吸が苦労そうな時、そういうときは迷わずにすぐに病院を受診です。受診するかどうか迷うようなときも、せっかく世界でも類稀なフリーアクセス(好きな医療機関に好きな時にかかって良い)の皆保険制度がある日本なので、遠慮なく受診です。このあたりは下の一見対立する2つの議論が興味深いです。いずれも本質的には、病院に受診するべきかどうかをお上や他人がとやかく指図するな、という点では同じことをおっしゃっているのじゃないかと思いました。

  1. インフルエンザで「早めの受診」は間違いです!
    医療ガバナンス学会 坂根みち子さん
  2. ただの風邪? 親としての直感こそ大切に
    Huffington Post Japan 高山義浩さん

でも、インフルエンザ流行期に熱が出たら必ず病院を受診して診断してもらう必要があるかといえば、答えはNoです。流行している時期には医師はそもそもあまり検査を行わず、病歴(いつからどのように具合がわるくて、周りがどのような状況か)と身体所見(呼吸、血圧、脈拍、酸素飽和度、発熱、咽頭後壁のリンパ濾胞や呼吸音など)から他の重大な疾患を除外してインフルエンザを臨床診断します。そう、医師がインフルエンザですと言えば、診断はインフルエンザです。

そして重症化するリスクや希望に応じて「風邪薬」や「抗ウイルス薬」を処方します。リスクがなくて希望がなければどうするかって?もちろん、何も薬は処方せずに「心配なさそうですから、ゆっくり栄養と休養をとって、お大事に〜」と笑顔でお送りするのです。あえて言えば、私たちは安心を処方しているといえるのかもしれません。

ですから、熱は有るけど元気で、食事や水分もとれ、意識もはっきり、呼吸も落ち着いていて、あなたが特に不安を感じないのであれば、病院に受診してもあまり得られるものはありません。繰り返しますが、不安な時、辛い時、夜中でも休日でも受診してください。でも、さほど辛くないけど熱があってちょっとだるいからという理由だけで、苦労なさって病院においでになる必要はないと思います。ましてや、症状がないのに「念の為」「検査のため」受診しても、待合室で長時間過ごすうちに、病院でインフルエンザにかかるのがオチですのでナンセンスです。

学校や職場によっては「インフルエンザ治癒証明」を求められることがあるかもしれませんが、医師が診察室で行うのは、またしても問診と診察だけです。そのための患者さん、家族、医療者の手間と時間と費用をかけるほどのものではありません。もし症状が改善してきたら、学校保健法に定められたとおり「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児は3日)を経過するまで 」自宅療養して、登園・登校すればよいはずです。沖縄県のように県全体で治癒証明を取りやめる取り組みも出始めていますので、広がればよいと思います。

熱が出たら必ず病院へ! ⇒元気であなたが心配していないなら、受診は必須ではありません。

誤解3 病院の薬が効く!

インフルエンザの迅速検査が陽性であれ陰性であれ、熱とだるさと咳とくしゃみと喉の痛みはどうにかしたいのが人情です。せっかく苦労して病院までたどり着いて、長時間待たされたんだから、「市販の風邪薬が全然効かないから、スカッと効くやつ出してよ!」とおっしゃるお気持ちはもっともです。

・・・でも、大変残念ですが、そもそも世の中には風邪薬(根本治療薬)なんて(私が知る限り)ないのです。それは市販の薬でも、病院の処方薬でも同じこと。漢方については私は勉強不足でよくわかりませんし、もしご批判、反論があれば謹んで伺いますが、いわゆる「風邪薬」には咳止め、痰切り、鼻水止め、熱冷ましなどが調合されているものの、どれも症状を和らげる対症療法薬で、風邪の原因となる様々なウイルスに直接働きかけるものはありません。(まぁ、その数少ない例外がインフルエンザに対する抗ウイルス薬なわけです)

ですから苦労して受診した夜中の救急外来でもらう風邪薬が、薬局で買うパ◯ロンとか◯ルよりもよく効くかというと、あまり差はないはずです。もちろん、もともと病気がある方や他に飲み薬がある方は、しばしば飲み合わせの問題がありますので、処方を希望する場合には病院を受診したほうがよいでしょう。繰り返しになりますが、「風邪薬」は風邪を早く治す薬ではなく、風邪の症状を飲んでいる間だけ和らげる薬です。

病院の薬が効く! ⇒市販薬も処方薬も風邪薬は症状を和らげるだけ

あ、もちろん「肺炎にならないように、念のため抗生剤を出して」なんておっしゃらないでくださいね。

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「南牧村診療所からこんにちは」より

ちなみに余談ですが、法律の決まりで医師は自分に薬を出すことが出来ません。じゃぁわざわざ薬局で風邪薬を買ったり、高価な◯山薬品や農◯の置き薬を飲んだり、あるいは病院を受診して風邪薬をもらうかというと・・・、私の答えは多くの場合Noです。

今回は症状も軽いし、たっぷりショウガをきかせた甘〜いチャイ(インドやネパールで飲まれているミルクティー)を飲んで、あとはしっかり休んで体が勝手にウイルスを追い出すのを待ちます。具合が悪い時に仕事や学校を無理せずに休める社会の仕組みのほうが、ずっと効く!ような気がしてなりません。国民医療費40兆円の時代に、限られた社会資源の使い方を冷静に考えるべきだと思います。

最後に

やや朦朧とする頭で雑然と書きなぐったので、不正確なところや言い過ぎのところもあるかもしれません。ご指摘は@zakojiで甘んじて受けます。また臨時休診でご迷惑をおかけしているみなさん、申し訳ありません〜。

先ほど息子二人(共にインフルエンザ野郎)と入浴していたら、娘が扉を開けて「やーい、バイキンメン」と冷たく言い放って消えました。明日はキミがドキンちゃんになっていないことを祈っています。

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佐久市平賀のmarucafe(*2)さんのチャイ・スパイスセットで、自宅で手軽に本格チャイが煮出せます。個人的に好きなだけで、リベートをもらっているとか、開示すべき利益相反はありません。

(*1) Jefferson T, Jones MA, Doshi P, Del Mar CB, Hama R, Thompson MJ, Spencer EA, Onakpoya IJ, Mahtani KR, Nunan D, Howick J, Heneghan CJ. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in adults and children. Cochrane Database of Systematic Reviews2014, Issue 4. Art. No.: CD008965. DOI: 10.1002/14651858.CD008965.pub4.

(*2) marucafe http://maru-cafe.com

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