「テクノロジーは医療問題を解決できるか」がたしかにヤバかった話

話題の古市さんと落合さんの文春オンラインの対談を読んだ。「この問題は結構ヤバいな」とサブタイトルにあったが、なるほど確かにヤバかったので7ヤバい〜ポイントをシェア。編集者は故意なんですかね、きっと。

ヤバ1 終末期1ヶ月医療費の都市伝説を信じている

古市 財務省の友だちと、社会保障費について細かく検討したことがあるんだけど、別に高齢者の医療費を全部削る必要はないらしい。お金がかかっているのは終末期医療、特に最後の1カ月。

終末期、最後の一ヶ月の「延命治療」をやめれば社会保障費が劇的に減らせるというのは都市伝説に過ぎないと思う。ソースには言及されていないが、おそらくこのあたりか?

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0322-11a.pdf

「終末期医療費」を死亡前1ヶ月の医療費と定義した場合、一年間の終末期医療費は9000億円。でも、この年の社会保障給付費は91兆円、医療費に限っても29兆円。古市さんたちが言う「終末期医療費」を全部削っても、医療費の3%、社会保障給付費の1%を減らすに過ぎない。図に書き加えた青い棒くらいのものだ。

finalstagemedicalexpense

しかも、このデータは2007年とすでに周回遅れだし、実は蓋を開けてみると、分析対象の元データはなんと1990年と1991年の社会医療診療行為別調査である。平成が始まったばかり、30年前の話じゃないか。

たしかに、終末期にどのくらいの医療費がかかっているのかというのは、マクロの視点では重要な分析だ。そもそも「終末期」はいつからなのかとか、「死期は予測できるのか」とか課題は山積だと思うので、嫌味ではなく、ぜひ財務省のお友達に最新の分析をアップデートしていただきたい。そうでなく論拠を示さず都市伝説を吹聴するのはヤバ1。

ヤバ2 高齢者の治療差し控えは「大したことない話のはず」

古市 だから、高齢者に「10年早く死んでくれ」と言うわけじゃなくて、「最後の1カ月間の延命治療はやめませんか?」と提案すればいい。胃ろうを作ったり、ベッドでただ眠ったり、その1カ月は必要ないんじゃないですか、と。順番を追って説明すれば大したことない話のはずなんだけど、なかなか話が前に進まない。

これは感情的な余談だが、我が家の3歳になる子どもは脳性麻痺で寝たきりだ。まぁ一日中「ベッドでただ眠ったり」する時間が多いし、この3年半、一日5回のペースト食を毎回30分から1時間かけてどうにか嚥下してきたのも「必要なかったんじゃないですか」と後ろから鈍器で殴られた気分だ。

痰も出せないのでいつも呼吸は苦しそうで、担当医からは気管切開と胃ろうを勧められるが、もう少しやってみますと先延ばしにしているうちにニューデリーに流れ着いて棚上げとなっている。古市さん、この子に胃ろうを造るのははたして延命治療だろうか。「順番を追って説明すれば大したことない話」だろうか。話がそれた。

怒りでプルプルしてしまう(大げさな)のをぐっとこらえて、ぜひ一度お手並みを拝見と申し上げたい。今この瞬間も、きっとお二人の住む町の病院で、患者・家族と医療者たちがこのテーマと向き合っている。時間を割き、心を砕き、傷つけ傷つけられながら、だ。年齢や病気の種類で線引きなんてできるのだろうか。マクロの医療経済、社会保障費の課題と、目前の一人の人間の治療方針の選択とを、同じ土俵で語ることができるという想像力がヤバ2。

ヤバ3 命の沙汰も金次第

落合 終末期医療の延命治療を保険適用外にするとある程度効果が出るかもしれない。たとえば、災害時のトリアージで、黒いタグをつけられると治療してもらえないでしょう。それと同じように、あといくばくかで死んでしまうほど重度の段階になった人も同様に考える、治療をしてもらえない――というのはさすがに問題なので、コスト負担を上げればある程度解決するんじゃないか。延命治療をして欲しい人は自分でお金を払えばいいし、子供世代が延命を望むなら子供世代が払えばいい。今までもこういう議論はされてきましたよね。

古市自費で払えない人は、もう治療してもらえないっていうことだ。それ、論理的にはわかるんだけど、この国で実現できると思う?

落合 災害時に関してはもうご納得いただいているわけだから、国がそう決めてしまえば実現できそうな気もするけれど。そういったことも視野に入れないといけない程度に今、切羽つまっているのでは。今の政権は長期で強いしやれるとは思うけど。論理的には。」

お金のあるなしで受けられる医療に差がつくのは、日本国憲法が保証する基本的人権の侵害だ。世界の国々が皆保険制度を整備し、お金のあるなしにかかわらず、すべての人が必要なときに医療受けられるようにしよう(Universal Health Coverage)という機運が高まる中で(日本政府は国連でその旗振り役ですよ)、真っ向から逆行することになる。もちろん、人口ボーナスのない高齢社会日本が抱える社会保障負担は世界最先端の難題だが、ここで命の沙汰も金次第に逆戻りするのが、お二人の明晰な頭脳が導く「最適解」なのだろうか。むしろそれこそチキンレースそのものなんじゃないか。そして、そもそも、「終末期」「延命治療」を国や医療者がどう決めるのか、ああおそろしやビックブラザー、1984。ヤバ3。

ヤバ4 医者って後期高齢者に対しては9割公務員?

古市 今の政権は社会保障費の削減にはあまり関心がないでしょ。あと、それを実現しようとすると、日本医師会が反対すると思う。日本医師会は最強のロビーイング団体とも言われている。頭が良くて、お金もあって、時間まである人たちの集まりだから。日本では医療費の7割、後期高齢者の医療費なんて9割は公的負担だよね。つまり医者って後期高齢者に対しては9割公務員。

まず、日本医師会が金儲け悪徳医師の巣窟で巨大な闇の組織みたいな安直なラベリングはどうなのか。日本医師会の会員数はせいぜい17万人(日本の医師の6割程度、私も会員ではない)、選挙でそんなに影響力がある規模ではないし、政治献金を通じたロビーイングはあっても、それは医師会に限った話ではなく各産業界も同じ構図。それはともかく、後期高齢者の医療費の財源のうち、公費負担は47%だ。たしかに自己負担は(所得に応じて)1割または3割だし、現役世代の保険料からの支援金もあるが、だからと言って9割公費と言うのは悪意がありはしないか。医療費全体でみても公費負担は約4割だ。ヤバ4。000363221

https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000363221.pdf

ヤバ5 在宅化で社会保障費カット?

落合 たしかに、そこが重要。高齢者の延命治療はある程度自費で払うことにして在宅化をすすめれば、社会保障費をカットしつつステークホルダーを納得させることができるんじゃないか。でも、現状を変える必要がないわけですよね。この問題は結構ヤバいな。どうするんだろう?
古市 もうどうにもならないんじゃないの?
落合 いやいや、どうにもならなくはないでしょう。考えないと。背に腹はかえられないとなれば――。

「在宅医療で社会保障費がカットできる」というのは本当だろうか。そもそも、在宅医療や地域包括ケアの本来の目的は患者や家族が希望する場所で療養できるよう、病院以外の選択肢を提供することで、医療費削減の道具ではない。自宅で療養するためには、医師や看護師、リハビリスタッフや薬剤師が頻繁に自宅に赴く必要もあるし、福祉の力を借りてヘルパーや配食、通所サービスなど生活支援も手厚く必要だ。全てに正当な対価が算定されているとはいえないのが現状だと思うが、少なくとも在宅医療にすれば即社会保障費カットという短絡的な構図にはない。サンプル数1の観察研究によると、私自身が信州の山村の診療所長をしていたとき、在宅患者が増えるほど、診療所の経営は安定したことは明記しておきたい。決して、在宅医療=治療差し控え=社会保障費カット、ではない。目的と手段と結果が混乱している。ヤバ5。

ヤバ6 高齢者が自分で吸痰?

古市 そこにも法律の壁があって、家族以外の第三者が高齢者の介護をするとき、痰の吸引をするためにも資格が必要で、すごく厳密に既存の法律が決めちゃってるじゃん。
落合 第三者が吸引をするのは法律の壁があるけど、自分で吸えるようになればいい。自分で痰を吸引するためのオープンソースの機械が出てくれば、医療や介護に必要なコストは下がると思うんですよ。一度それが開発されると、オープンソースの安いものが例えばAmazonで買えるようになってくる。

たしかに医療機器の開発手法には課題があるかもしれない。効率よく安価に医療機器の改善が進み、安全も担保される仕組みがあるのなら、それは夢があると思う。(吸引器の設計図があれば誰でも作れるのかといえばそれも疑問だが)ただ、吸引器は今だってAmazonで買えるのだ。しかも病院に出入りしている専門業者の半額くらいでだ。我が家も脳性麻痺の娘のために買ったが、障害者手帳や診断書を準備する手間を考えて、アマゾンでポチッとした。(アフィリエイトではありません)

https://www.amazon.co.jp/s/ref=nb_sb_noss?__mk_ja_JP=カタカナ&url=search-alias%3Daps&field-keywords=吸引器

さらに疑問なのは、脳血管疾患や認知症や高齢による廃用で吸痰が必要な高齢者で、自分で痰を吸引できるという人がどれだけいるのかだ。想像してみたらすごくシュールな絵だ。現場感覚としては多く見積もっても1割以下だと思う。もう少し緻密な取材が必要だと思うし、それをしないのなら、せめて現場感覚がない「無知の知」という謙虚さが必要ではないか。ヤバ6。

ヤバ7 アルツハイマー型認知症の治療薬はできる?

古市 認知症を治すのはまだ当分先になりそうだね。アルツハイマー型認知症の治療薬はできると言われているけど、万能の特効薬は難しそう。
落合 しばらく治りはしないかもしれない。しかし、研究開発や治験も進んではいる。薬で治すだけでなく、認知症になってもITで普通に暮らすことができる、何とか頑張って、あと10年でそこに着地したいんですよね。

フランスで昨年、アルツハイマー型認知症の治療薬に費用対効果が認められないとして保険収載が取り消されたのは記憶に新しい。科学や医療の全能感がお花畑のように広がっていて素敵ですね。不老長寿や仙豆の開発も近そう、いでよ神龍!ヤバ7。

https://www.huffingtonpost.jp/mamoru-ichikawa/alzheimer-20180611_a_23455701/

総じて、落合さんは自分の専門外のことについては抑制的だが、古市さんが自由奔放なのがトンデモヤバかったっす。お二人ともきっと悪意はなく、これからの日本の社会保障を心から心配しておられるのに違いないと思うのですが、「これを機会に国民的議論が広がれば」なんてお茶を濁すのははばかられる点が多かったので、大人げないですがドラゴンボールを集めてしまいました。事実誤認、ご指摘があればzakojiへご指導ください。合掌。

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